コンフォートフィーディングとお食い締め 〜朝日新聞の記事掲載の解説〜
- 2019.05.05 Sunday
- 13:23
人は生まれてからずっと、身体の37兆2千億(従来60兆と言われていたが正確には37兆程ということが最近わかっています)の細胞全てに、滞りなく栄養素を送り続けなくては生きていけません。一方で、命の終わりが近づいた時にも、苦痛を伴う管や点滴などの医療行為を行ってでも、何が何でも必要な栄養を身体に送り込まなければならないという考えに固執することで、ご本人の穏やかな時間を奪い、かけがえのない人生最期の時間をだいなしにすることが少なからずあり、大きな問題になっています。
平成の最期週の4月26日(金)朝日新聞朝刊の「患者を生きる」シリーズにコンフォートフィーディングの考え方についてご紹介いただき、翌週の令和元年(5月1日)に、「老いとともに 食支援」の紙面にも続けて掲載していただきました(記事参照)。
コンフォートフィーディングは2010年頃より欧米で広がりつつある終末期の食についての考え方です。認知症や老衰で終末期を迎えつつある患者さんに対して、必要な栄養を無理やりに入れるということではなく、十分な栄養量でなくても、安楽で安全に食べる行為を継続することそのものに、食べることを楽しむことや食を通して人と交わりあうことに大きな意味があるという考えにたち、終末期の食についてのパラダイムシフトを提唱するものです。そして、コンフォートフィーディングを実践するには、正確な摂食嚥下評価、徹底した口腔ケアとSkilled feedingと言われる熟練した食事介助が重要になりますので、まさに医療・介護がチームとなってかかわることで最大の結果が得られるものです。
3カ月ほど前に、朝日新聞の田村記者から1時間程の取材をうけ、是非多くの皆さんに知っていただきたい考え方として、このコンフォートフィーディングについての考え方をお伝えしました。同時に、コンフォートフィーディングに類似した食についての考え方で、昨年まで当院で在宅専門医の研修をしていた宇藤医師が熱弁していた牧野日和氏(言語聴覚士)の「お食い締め」(お食い初めならぬ)の考えもあわせてご紹介しました。日本人にはこちらの言葉のほうが、親しみやすいかもしれませんね。
日本人の死亡のピークは男性87歳、女性92歳となり、超高齢期のほとんどの人は最期は食べられなり、亡くなっていきます。そんな中で、最期までどのように安全に、楽しみのための食を続けてもらうか、最期まで食をどう支援するかは、間違いなく日本の医療・介護現場でも最大の課題の一つになってきています。
このことは、チームかじわらでも大きな関心事です。部門をまたいだ栄養・食支援チームや嚥下(飲み込み)評価のための入院など医師、看護師、言語聴覚士、栄養士、介護職など多くの専門職がこの課題に取り組んでいます。(食べることに困ったらいつでも相談してください)
ただ、食べられなくなった時どうするかについては、医療者は徹底的に支援することはできますが、最終的に医療者が決めてくれるわけではありません。なぜなら、限られた命をどう生きるかはもはや医療の問題ではなく、価値観や生き方の問題となるからです。まさに、自分事として身近な家族(方)と事前に話し合ったり、自分の考えを十分伝えておくことも、自分の身体の主としての自分の役割だと思います。
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